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2011-08-15

【政治社会】若年層の雇用機会増加に関して

世界各地で若者のデモが頻発しているニュースを最近よく見ます。その報道のなかで驚いたのが、スペインの若者の失業率が45%を超えているということでした。45%って一体・・・。ただ、日本も他人事ではないですね。日本では24歳以下の失業率は約10%です。

それで、最近こんな記事を読みました。

企業に雇用を義務づければ、長期的に雇用機会は減少する
DIAMOND ONLINE (2011.08.02)


雇用を維持するためには労働力の流動性を高める必要があるという筆者の意見には賛成です。ただし、多少補足したいところがあったので自分なりにまとめてみたいと思います。仮にこの記事を慶應義塾の通信制にレポートとして提出したら、まぁ学部にもよるでしょうが、C(可)かD(不可)くらいなのかなと思う。


筆者は20代~30代の所得が低いことについて、その原因として非正規雇用労働者の増加を挙げています。さらに、この背景としては、低賃金でも生活できる実家暮らしのパラサイトが増加していることを指摘しました。そのうえで動物の生態を引き合いに出し、「一般に、成人した子供と一緒に住む動物はいない」ことから、親と同居する若者を不自然だと言っています。まず、この辺りに違和感がありました。

成体になった後に単独で生活する動物というのは、必ずしも一般的ではありません。猿など比較的高等な哺乳類はバンド(小集団)を形成し、それらは血族で構成されます。狼のような個体で生活しているイメージが強い生物も、実は集団で行動します。筆者がどのような生き物を想定しているかは不明ですが、親元を離れない若者を不自然と言うために動物を引き合いに出すのは無理があります。人間は猿や狼のバンドをまねて原始的な社会を作ったという説もありますし、血縁関係にあるものが集住するのはむしろ自然なことです。動物を引き合いに出すまでもなく、多くの者が同じ屋根の下で暮らしながら収入の口を増やすという行動はそれなりに合理性があると考えられます。経済状態が好転しない現在の日本ではなおのことです。

歴史的に見ても、日本の核家族化が進行したのは戦後のことです。それまでは一つの家に多くの人間が住むのは珍しいことではありませんでした。実際のところ、家制度が廃止されたのは昭和22年(1947年)の民法改正によってであり、現行の昭和23年式戸籍以前の戸籍にはその家に住むすべての家族の名前が記されていました。実際に自分の家の改正原戸籍を見たことがありますが、家族の多さに驚いたことがあります。成人したら家を出て新たな家庭を構成するというのは、我が国において必ずしも伝統的な家族形態とは言えないところがあります。伝統的だからよいということが言いたいのではありません。大家族にもそれなりに弊害はあるでしょう。しかし、日本的家族制度が解体された背景にはアメリカの対日占領政策が関係していた可能性もあります。日本人にとって妥当な家族制度はどういうものかについては再考が必要で、古い(第二次世界大戦後の)価値観を手放しに是とするのは我が国にとってよくないことだと思うのです。

筆者はもう一つ、若者が社会に出るのを促進するために、子供と一緒に居住する親に所得税を重加算することを提案しています。これもまた違和感がありました。

まず大きな問題として浮かび上がるのは介護問題です。親と同居する(せざるを得ない)のは若者ばかりではありません。また、若くてもそういう問題を抱えている人もいるでしょう。自分自身、親の介護問題を考慮に入れて田舎に住み続ける選択をしているわけですが、そういう事情の人たちまで対象になるのかどうか。恐らく、個人の事情にまで細かい配慮ができるような税制を敷くのは不可能だと思います。今後は少子化も進行しますから、介護問題は確実に大きな社会問題になります。親の介護のために仕事を辞めざるを得ない人も少なからず出てくるでしょうが、そうした場合、それまで勤めていた会社と同程度の待遇を得ることが日本ではほぼ不可能です。経済的に苦しい状況に陥るはずですが、そういう人たちにまで課税しようというのでしょうか。

また、現代の法律は個人の尊重が基本です(日本国憲法第13条による)。戸籍法にしても、家族の単位は夫婦が基本です。つまり、子供が同じ家に居住していたとしても、実際には世帯を分けることが可能なわけです。このような場合、何を基準として課税をするのでしょうか。田舎の農家では同じ敷地のなかに子供が家を建てて暮らしていることがありますが、外見上は上の例と見分けがつきません。課税は技術的に難しいでしょう。そもそも、現代社会は個人を基本単位としているわけですから、課税は親(あるいは家)ではなく子供本人にするべきです。筆者が言うような課税を実際に行う場合、民法改正を含む大掛かりな法律の変更を行う必要があります。実行は困難と言わざるを得ません。

次は、現状で若者を家から追い出した場合、低所得者は減少するかという問題。筆者は「若者を家から追い出すことが、フリーター(=低所得者)を減少させる(若い世代の所得を向上させる)一番の早道ではないだろうか」と述べていますが、本当にそういうことになるでしょうか。

筆者は非正規雇用に対しては否定的なようですから、家の外に出て働くということは正社員として雇用されるということを想定していると思われます。しかしワーキング・プアの問題を見てもわかる通り、正社員で就職したとしても低賃金状態に置かれることは十分にあり得ます。それに、企業が求めるのは即戦力の経験者であって、就業経験が比較的少ない若年者には厳しいものがあります。何の対策もなく若者を放流した場合、その多くは非正規雇用となり、低賃金層を厚くするばかりではないでしょうか。

これに対して筆者が提案するのは同一価値労働同一賃金(ILO第100号条約、日本は1967年に批准。ちなみに「同一労働同一賃金」ではない)労働力の流動化です。これについては自分も賛成です。筆者はこのような対策と若者を野に放つのと、どちらが先かについて述べてはいませんが、労働政策を優先しなければならないと思います。実際、そういう対策がこれまでなされなかったからこそ、若者が自己防衛のために親元を離れないということになっているわけですから。(自分は大家族容認派なので、パラサイトだなんだといわれようとも彼らの行動は社会科学的に合理的な選択の結果だと思いますけどね)

それから、筆者の「このようにわが国の労働慣行では青田買い・年功序列・終身雇用・定年制がいわばワンセットで分かち難く結びついている」という部分に補足を加えておきたいと思います。

日本は明治以来急激な近代化を遂げましたが、その背景には「疑似家族制」が存在したと考えられます。企業を一つの家族に見立て、労働者を取り込むことに成功したわけです。戦前の日本は天皇を頂点とするメタ疑似家族制(臣民は天皇の赤子)が存在していて、企業に尽くすこと=国家に尽くすこと(滅私奉公)という形で労働者を取り込むことができました。戦後は家制度が解体されたため、企業がその代わりとなって労働者を吸収しました。疑似家族として。パラサイトの本家は企業社会だったというわけです。しかし、日本の経済発展にはこの「疑似家族制」が極めて有効に作用したんです。戦時体制下の人口政策によって余剰となった世代(団塊の世代)があったことも、我が国の経済発展にとっては幸運だったといえるでしょう。日本社会はある時期まで、一つの大きな家族のようなものでした。(若い頃はそういう状態が非常にウザかったわけですが・・・)ところが、昭和時代の終わりごろから平成にかけてグローバル化が進み、国際競争力維持のために生産の効率化がそれ以前にも増して叫ばれるようになりました。その結果、企業は疑似家族を維持できなくなり、労働者はもはや家族の一員ではなく、個人に戻らざるを得なくなったのでした。うがった見方をすれば、これはアメリカが仕掛けた時限爆弾のようなものだったのかもしれません。

現在の経済低迷は、これまで有効だった日本の労働慣行がもはや機能しなくなっているところに原因があります。特に大企業ではそう。疑似家族の時代は終わったんです。現代の日本企業に求められるのは、労働者を個人として活用できるシステム作りです。正規社員(うちの子)、非正規社員(よその子)などという労働区分はもはや無用のものと思わなければならないと思います。

日本の中小企業は世界レベルの技術力を持っているところも少なくありません。国際競争力を失っているのはむしろ大企業ではないでしょうか。日本の中小企業は海外の企業と提携することによって、まだしばらくは高付加価値の製品を世界に供給することができると思います。そこで若者の話に戻りますが、本当に能力がある学生なら筆者の言うように企業を興すことも選択肢としてあるでしょう。そうでなくとも技術力の高い(国際競争力の高い)中小企業に就職することは可能です。ただ、残念ながらそれほど高い職業能力を持たない若年層については、有効な職業訓練システムを早急に構築する必要があると考えます。

動物は群れの中で弱いものがいた場合、全体でそういった弱者を守る傾向があるようです。肉食動物の場合は群れが大きいほど効率よく食料が確保でき、草食動物の場合は群れることで安全を確保しやすくなるからです。少々弱いからと言ってたびたび仲間を見捨てるようなことがあれば、群れは維持できなくなり、やがて崩壊してしまいます。見捨てるのは最後の最後。もうどうにもならない状況の時だけです。弱者を守るのはリーダーの務め(権力の正統性の根拠)ですが、その務めを果たせないリーダーはいずれ群れから放逐されることになるということを、人間のリーダーたちも心に留めておく必要があります。

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