« 【アニメ】RD潜脳調査室(2061年のぽっちゃり美少女) | トップページ | 【読書】日本の近代 »

2008-09-02

【歴史】憲政の常道

福田さん、辞めちゃいましたね。
それで、前の安倍さんが辞めた時にも野党の議員の皆さんが「憲政の常道」なんていうことを言っていたような気がします。

憲政の常道。
戦前のごく短い間ではありましたが、日本は二大政党制のような感じになっていた時期がありました。立憲政友会と立憲民政党が交互に政権をとる時代があったんです。ある政党が不祥事を起こして退陣すると、次は別の政党が政権を担当するという。この時代を「憲政の常道」時代というんですね。ちょっと見た感じではよさそうなシステムに見えるでしょう? 「常道」っていう言葉の響きもいい。自分もしばらく前まで誤解していた部分があります。ところが、この「憲政の常道」がその後の戦争につながるきっかけのひとつだったと言ったら、皆さん信じますか?

現代日本の内閣総理大臣は衆議院で多数を占めた政党のリーダーが就任するのがお約束になっています。国会議員であって、国会で指名されれば別に誰でも構わないんですが、「国会で指名される」ということはつまり多数決になるわけです。仮に自民党が衆議院で多数を占めているとすると、当然内閣総理大臣は自民党の議員が多数決で指名されますよね。しかも自分たちのリーダーを総理に推すはずです。だから自民党の総裁になるってことは、首相になることとほぼ同じということになるんです。まぁ、自民党が衆議院の議席の多数を占めているという前提のもとでっていうことですけど。参議院で衆議院の指名した人物とは別の人物が指名されることもありますが、とりあえずその話は置いておきます。結局は衆議院の指名が優先するから。

ところが戦前の日本では、総理大臣は議会ではなく天皇に指名されていました。実際には天皇を補佐する元老に指名されるわけですが、議会は関係ありません。議会で劣勢な政党から総理大臣が指名されることもありましたし、そもそも政党とは関係ない人が総理大臣になることもありました。昭和初期は元老・西園寺公望が総理大臣を指名する権限を持っていて、この人が「憲政の常道」という考え方を持っていたわけです。誤解がないように書いておきますが、この西園寺という元老はわりとリベラルな考え方を持っていた人です。

しかし、この「憲政の常道」には大きな落とし穴がありました。二つの有力な政党があったときに、ある政党が不祥事で政権を失った場合、野党であるもう片方の政党が必ず政権をとることができるというシステムです。勘のいい人はもうわかったと思いますが、激しい足の引っ張り合いになるんです。政治なんかそっちのけで。とにかく与党を引きずり降ろしさえすれば、必ず自分たちが政権をとることができる。「憲政の常道」っていうのはそういうシステムなんです。

そういう状況で日本史上痛恨の一撃とも言えるある問題が起こります。1930年(昭和5年)のロンドン海軍軍縮条約締結に対して、軍や右翼が「統帥権の干犯」を唱えた問題です。細かい説明は省きますが、このときの濱口雄幸内閣は軍縮で妥協しました。それを「弱腰である」と叩かれたんですね。「統帥権」っていうのは何かっていうと軍隊を動かす権限で、「天皇大権」とされていたものです。海軍を動かす「軍令」は天皇を補佐する海軍軍令部が握っているのであって、内閣であろうが口を出すことは許されないと主張したわけです。まぁ、屁理屈なんですが。軍縮条約は「軍政」に関わることなので統帥権は関係なかったんだけどね。むしろ内閣の所管です。ところが、その屁理屈が通ってしまう。その当時の内閣はとても権力が弱かったんです。なにしろ帝国憲法に内閣の規定がないくらいですから。

条約自体は締結されて批准もされたんですが、その後に大きな禍根を残すことになりました。「統帥権の干犯」なんていう屁理屈を認めてしまったら、国際条約、特に軍縮条約なんかまともに締結できなくなるじゃないですか。この問題が起こったときの与党は立憲民政党で、総理大臣は濱口雄幸でした。(外務大臣は幣原喜重郎) そしてこのとき、野党であった立憲政友会は軍と同調して濱口内閣をそれはもう激しく攻撃したんです。なにしろ、「憲政の常道」システムでは与党を潰しさえすれば必ず政権がまわってきますからね。ちなみにこの当時立憲政友会の党首だった人物は犬養毅です。そして与党を激しく攻撃した政友会議員の一人は鳩山一郎でした。犬養毅はその後、昭和7年(1932年)5月15日、政党政治に不満を持っていた青年将校らのテロに遭遇し、射殺されました。皮肉な運命です。

一見よさそうに見えるシステムでも、思わぬ落とし穴があるんですね。現在でも自民・民主の二大政党が交互に政権を取るのが望ましいと言われることがありますが、それが制度として固定化されたとき、再び戦前と同じようなことが起こるのかもしれません。実際のところ、今回の総理辞職だって衆参のねじれが原因のひとつにありますよね。野党が話し合いに応じなければ政治が少しも前に進まないわけです。参議院で多数をとりさえすれば内閣を潰すことができるという前例ができてしまうことが果たして正しいことなのか、もう一度考える必要があるかもしれません。場合によっては参議院を廃止して一院制にすることも考えた方がいいと思います。

|

« 【アニメ】RD潜脳調査室(2061年のぽっちゃり美少女) | トップページ | 【読書】日本の近代 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

政治・社会」カテゴリの記事

慶應義塾」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【歴史】憲政の常道:

« 【アニメ】RD潜脳調査室(2061年のぽっちゃり美少女) | トップページ | 【読書】日本の近代 »