« 【読書】大正デモクラシー(19/100) | トップページ | 【大学】レポート返却(憲法) »

2008-05-22

【読書】清沢洌 (20/100)

今年読んだ本20冊目。

戦前、一貫して日米協調を説き、最後までその考え方を捨てなかったジャーナリストがいました。

清沢洌―外交評論の運命 (中公新書)
北岡伸一著 2004年

清沢洌(きよさわきよし)。
学問に対して親類が無理解だったことから、この人は正規の高等教育を受けていません。16歳でアメリカ移民となり、以後亡くなるまで独学を続けた人でした。アメリカから一時帰国をして早稲田に合格したこともあったのですが、やはりスポンサーになってくれる人がいなかったために進学は断念せざるを得ませんでした。

清沢は国際問題などについて当時の日本人とは大きくかけ離れた感覚をもっていたようですが、それは移民前に学んでいたキリスト教系の私塾や移民後のアメリカでの生活が基礎になっていたようです。非常にリベラルな感覚を持った人でした。

ただ、彼の書く文章はあまりに理想主義的なところがあったために、右翼からも左翼からも攻撃されることになりました。彼の書く文章は誰にでも伝わるようにという意図から平易な文章で書かれていたことも多かったようで、それもまた彼の評論が軽く見られる原因になったようです。「わかりやすく書く」っていうのは、ジャーナリストの基本なんですけどね。大衆に迎合するというのとは全く別の次元の話です。

「忘れてならない一事は、日本と米国とは、好むと好まざるとにかゝはらず、永遠の昔から、永遠の未来まで、太平洋を隔てゝ、相対して生きねばならぬ運命の下に置かれて居ることである。(中略)隣人の間で、罵しり、怒り、争ふことが相互の幸福でないことを信じる私は、時々に見る米国及び米国人の暴若無人(ママ)の態度に甚だしき不満を覚え乍らも、出来るだけの互譲と諒解によって、両国の関係を善導したいと懸念する一人なのである」
54頁より引用。

現在もアメリカあるいは中国は、時に「傍若無人」の振る舞いをすることがありますし、自分だって両国には批判的なことが多いんですが、だからといって平和に対する努力を諦めてはいけないと思うんです。北朝鮮に対してだってそうです。それがどれだけ理想主義的で偽善的に見えたとしてもです。理想を語らなければ、日々学んでいる意味がないじゃないですか。たとえどれだけ孤独に苛まれようとも、誰かが理想を語らなければいけないと思うんです。

しかし、清沢の言論活動は失敗に終わります。日本は結局アメリカと戦うことになってしまった。

「僕たちの努力が足りなかったせいだ」

昭和16年(1941年)12月8日、清沢はある自由主義者の会合でそう語ったといいます。戦争なんて、もちろん個人の力で止めようもないものです。しかし、日米協調を唱え続けてきた彼には、自分自身の無力がどうしても許せなかった。人から見ればおかしく見えることなのかもしれませんが、そのハートの熱さに感銘を受けました。

その日米戦争を招いた原因のひとつとして、清沢は「教育の失敗」を考えていたようです。

「教育の失敗だ。理想と、教養なく、ただ『技術』だけを習得した結果だ」
205頁から引用。
(『暗黒日記』 昭和20年2月15日)

そして、清沢はその反省を踏まえて、戦後日本に向けての新たな希望を書き残しています。戦前の言論活動は失敗に終わりましたが、彼は諦めていたわけではなかったんですね。

「日本が、どうぞして健全に進歩するように-それが心から願望される。この国に生れ、この国に死に、子々孫々もまた同じ運命を辿るのだ。いままでのように、蛮力が国家を偉大にするというような考え方を捨て、明智のみがこの国を救うものであることをこの国民が覚るように-。(中略)僕は文筆的余生を、国民の考え方転換のために捧げるであろう。」
205-206頁より引用。

清沢洌は終戦を見ることなく、昭和20年5月21日、55歳の生涯を閉じました。
彼の最後の希望は、かなえられることなく終わったのでした。どれだけ無念だったことか、想像するに余りあります。彼がもし戦後も生きていたらどんな文章を書いたのか、それがとても気になります。吉田茂をどう評価したのか。日米安保をどう書いたか。ベトナム戦争をどのように切ったのか・・・。とても残念です。

清沢洌が亡くなって63年が経ちましたが、今も日本は内外に様々な問題を抱えています。現代の日本を考える時、彼の考え方が少しでもヒントになりはしないかと思うんです。

|

« 【読書】大正デモクラシー(19/100) | トップページ | 【大学】レポート返却(憲法) »

政治・社会」カテゴリの記事

慶應義塾」カテゴリの記事

読書」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【読書】清沢洌 (20/100):

« 【読書】大正デモクラシー(19/100) | トップページ | 【大学】レポート返却(憲法) »